白いプラスチックに発生する炭化物(黒ブツ)はNGとしてはよくあるものですが、形状が複雑な物では照明条件などが難しく、また全周にわたって検査する必要があるため複数のカメラを使ったり機械で回転させたりする必要がありました。これらのことは検査システムとして非常に高価になることにつながり、これまではコンベアを流れる製品を人が目視で検査せざるを得ない場合が多く見られました。しかしながら最近ではAIを使うことによって簡単な仕組みでNG品を自動排出できるようになりました。今回はキャップの天面と全周を(複数台のカメラを使わずに)1台のカメラだけで検査しています。そのために摩擦の力を利用してキャップを回転させるようにしました。この自動排出の仕組みは金属のダコンや変形、樹脂のショート、食品の検査などにも応用できます。
製作期間:1日半
材料費 :3~4万円
構成図
AI画像検査ソフトDeepSkyがNGを検出するとIntelligent I/OからNG信号が出力されます。このNG出力に電磁弁を接続することにより、NGを検出した時に電磁弁が開きます。この時、エアーコンプレッサーの空気がプッシャーに流れることによりプッシャーが前に出てNG品が自動排出されます。
材料・部品
- イレクター[矢崎化工/ H-1200]:2本
- イレクタージョイント[矢崎化工/ HJ-1]:6個
- イレクタージョイント[矢崎化工/ J-113A]:4個
- 木板 80 x 130 x 10
- 木板 30 x 130 x 10
- 木棒 1000 x 10 x 10
- ゴムシート 150 x 10 x 1
- 木ビス 3.5 x 12:3個
- 木ビス3.0 x 20:4個
- 木ビス3.5 x 30:2個
- M3 x 5 ナベ小ねじ:2個
- 赤黒電線:1m
- 空圧チューブ[SMC/T0645B]:2m
- スピコン[ミスミ/EPSUS6]
- プッシャー[コガネイ/TBSA20x50]
- 電磁弁[CKD/3KA110-GS6-DC24V]
材料・部品計:3~4万円
工具・備品
- PC[マウスコンピューター/G-Tune, Corei9, 16GB RAM, RTX 2070 SUPER]
- 画像処理ソフト[スカイロジック/DeepSky DS100K]
- IOユニット[スカイロジック/EI-ITIO-T01]
- 130万画素カメラ[Daheng/MER-133-54u3c]
- 12mm レンズ[M1214-MP2]
- エアコンプレッサー[AS18-3]、継手[日東工器/60PC-STL-NBR]ほか
- 安定化電源[HANMATEK/HM305P](DC24Vアダプタで代用可)
- イレクター28ハンドカッター [矢崎化工/EK-1]、サンアロー接着液[EY-30]
- ドライバ、六角レンチ、カッターほか
工具・備品計:90万円程度
作り方
コンベアに摩擦回転用の棒を設置
今回の工夫点として、摩擦を利用してコンベア上で自然に回転させる仕組みがあります。機械を使って回転させなくてもコンベア上に斜めの棒を置くだけで、そこに沿って流れるキャップは回転を始めます。木の棒はあまり摩擦係数が高くないのでゴムシートを貼って確実に回るようにします。
10mm角の棒をコンベアに対して斜めに渡し、ベルトからある程度の隙間を作るために1-2mmのスペーサーを入れてクランプで固定します。
コンベアをゆっくりと動かしてみて、キャップが回転したらOKです。
イレクターパイプを組む
イレクターはハンドカッター[矢崎化工/EK-1]を使って自由な長さに切ることができます。また、円柱のため(回転方向に)自由に角度をつけて固定できる利点があります。調整は後からでもできるので、例えば「大体このあたりにカメラを取り付けたい」という位置にたいして少し長さに余裕をもって切断すれば、予め図面を引く手間もなく「その場合わせ」でどんどん組んでいくことができます。
後から設備をバラしてパイプを別の設備で使ったりすることもあるでしょう。その時のために、予めパイプは15cm単位で切る、などと決めておけば後から使いまわすときにパイプ長さが揃っていて再利用も簡単です。
今回は60cmパイプ2本、30cmパイプ3本、15cmパイプ2本を使って組みました。
プッシャーの取り付け
パイプで大まかなフレームが組み上がったらプッシャーを取り付けます。ここでは木の板とジョイント[矢崎化工/ J-113A]を使ってフレームのパイプにプッシャー[コガネイ/TBSA20x50]を固定します。
まず木ビス3.5 x 30でプッシャーを木片に固定、その後3.5 x 12でジョイントJ-113Aを2個取り付けます。この時、この2つのジョイントは1本のパイプに固定されますのでパイプをつかむ部分が1直線になるように気を付けて下さい。短いパイプがあればパイプにジョイントを付けた状態でビス固定した方が楽かもしれません。
上のようにパイプに取り付けただけではプラスチックジョイントのところで回ってしまいます。そのため、全ての位置調整が終わった後、サンアロー接着液[EY-30]で回転する部分を接着します。
電磁弁の取り付け
木板 30 x 130 x 10に電磁弁とスピコンを取り付けます。木ビスは3.0 x 20のものを使用しました。
電磁弁には方向があるので注意して下さい。P側はエアーコンプレッサーと接続します。B側はプッシャー側(今回はスピコン)に接続します。因みに下の図のRは電磁弁がOFFになった時にRの穴から空気がリリースされることを意味しています。
※今回はエアーコンプレッサー→電磁弁→スピコンの順で接続していますが、この順だとプッシャーの繰り出し速度をゆっくりにしようとしてスピコンを絞ると戻りもゆっくりになってしまうのでエアーコンプレッサー→スピコン→電磁弁の順の方が良いかも知れません。また、スピコンも一方向は流量制御、逆方向は自由流というものもあります。
逆側にジョイントJ-113Aを取り付けます。
支柱に取り付けてスピコンとプッシャーをエアチューブで接続します。
電磁弁とIOユニットの接続
電磁弁をI/Oユニットから制御するため、電磁弁とI/Oユニットを接続します。またDC24Vを供給するための接続も合わせて行います。
下のような接続となるように配線して下さい。DC24Vの+がI/OユニットのK端子に一旦接続されてから電磁弁に供給されます。これは電磁弁やソレノイドなどから発生する逆起電力からI/Oユニットを保護するための回路です。K端子に接続していない場合、I/Oユニットのトランジスタが破損しますのでご注意ください。LEDなど逆起電力が発生しない部品の場合、K端子への接続は必ずしも必要ではありません。
カメラの取り付け
カメラ[Daheng/MER-133-54u3c]もジョイントJ-113Aを使ってパイプに取り付けます。このカメラは下面にM3のネジ穴がある(20mmの間隔)のでこれを使って固定します。下の図のように、ジョイントにφ3.5の穴を20mm間隔であけてM3.5 x 5 のナベ小ねじでカメラをジョイントに固定します。
カメラ位置とピント、絞りの調節
DeepSkyを起動するとライブ画面が表示されます。このライブ画面でピント調整、絞り調整、露光時間/ゲインの調整を行って下さい。
今回はコンベアを移動する物体を撮影するので露光時間は極力短くする必要があります。今回は露光時間を10000us(10ms)に設定しました。この状態だと暗すぎたため絞りを開放(f1.4)付近まで開きました。それでも暗かったためゲインを上げました。ゲインを上げると画面がざらつきます。また絞りを大きく開くと被写界深度(ピントが合う距離の幅)が狭くなりボケやすくなるので、実際の運用ではLED照明などで補った上で極力低いゲインで、絞りも開きすぎないのがベストです。絞りや被写界深度についてはこちらの記事で説明しています。
撮影・アノテーション・学習
DeepSkyの動画マニュアルに従って撮影とアノテーションを行い、学習を実行します。アノテーションの際にはアノテーション忘れ(黒ブツを囲い忘れる)に注意して下さい。検出率が下がってしまう場合があります。
撮り溜めた画像でテスト
学習が終わったら教師画像を含む、撮り溜めた画像を読み込んでブツが認識されるかどうか確認します(「ファイルから」ボタンで画像を読み込み)。認識率が低ければ認識点数を調節したり、再学習を実行したりしてブツが確実に検出できるようにしてください。問題なければ実際にキャップを流してテストします。
I/Oユニットを制御するための設定
DeepSkyのマニュアルに従い、I/Oユニットを制御するためのCOMポート設定を行って下さい。また、「撮影形式」を「連続撮影」にします。「インターバル」は0に設定します。
電源・エアーコンプレッサーを起動
いよいよ実際の動作です。24V電源を供給し、エアコンプレッサーをONにします。もしプッシャーが突き出る動作が不安なようでしたらまず24V電源だけONにして下さい。この場合、プッシャーは動きませんが、NGの時に電磁弁が「カチッ」というのでNGの時に電磁弁が動作していることは確認できます。
安定化電源は電流制限をかけることができるので、万一配線を間違ってショートさせてしまった場合でも設定された電流までしか流れないため、テスト段階ではACアダプタよりも安全です。テスト後の実際の運用の時はACアダプタを使用することをお勧めします。
排出動作をテスト
「検査/監視開始(F5)」をクリックします。
先ほど「連続撮影」モードに設定したので、DeepSkyはブツを検出するための画像処理を繰り返し行います。IOユニットのBUSYが点滅、OK/NGどちらかが点灯することを確認して下さい。
コンベアを動かして正常なキャップとブツのあるキャップを流します。正常なキャップはそのまま、ブツのあるキャップはプッシャーにより排出されれば完成です。検出や排出の動作にはコンベアの速度やプッシャーの位置、タイミングなどが関係してきますので適切に調節して下さい。
追学習と調整
実際に運用している中で見逃すブツがあったり、正常なキャップを排出したりすることがあるかもしれません。その場合、追学習によって見逃したブツを覚えさせたり、照明によって、よりはっきりとブツが映るように工夫していきます。
まとめ
AIによって位置決めの難しさが無くなったため、このような簡単・安価な仕組みでもNGを排出できるようになりました。この例ではNG信号出力に排出機構を接続しましたが、PLCに接続してより複雑な制御を行ったり、ブザーを接続して鳴動させたりすることができます。是非試してみて下さい。